2005年07月12日

ウォークウェイ

しあわせなデザイン 伊藤俊治編著より

海外、特にヨーロッパでは医療の現場や臨床にアートの活動を持ち込んだり、各種の病院施設の関係性の媒体役をアーティストを担う例が多くあり、オランダではかなり発展しています。
川俣氏への仕事の依頼はクリニックから直接ではなくモンドリアン・ファンデーションという国営のコンサルタント組織からの依頼で、オランダでは病院やクリニックにアーティストを派遣する例が数多くあります。

アートの面白いところは、アートは何でもありということで、例えば幼稚園でワークショップを行えば、描かれている絵のレベルは年齢、性別を超えて出てきます。練習するのでもなく、何かきっかけがあるわけでもなく突然現れます。唐突に現れる表現というものが必ずあるわけです。
それをわからないで通過していくのが子供であり、そういうことをきっかけにして自分はアートに才能があると思う人もいれば、まったくそれが判らずに終わる人もいる。それを認める人がいたり、認めない人がいたりする。アウトサイダー・アート、アール・ブルットという言い方をされますが、以前スイスで精神を病んでいる人の絵が一時期かなり有名になったことがあり、そのときに同じような意味でアート作品のクオリティーが多く議論されています。

美術史を勉強したり知識としてアートを知ること以上に、ある技術者があるということ以上に何かを唐突に生み出していくというか、異常者であろうが、健常者であろうが、子供であろうが、女性であろうが、老人であろうが、とにかく作品というのは出るときには出てくる。いろんなところにアートの可能性があります。

芸術家としてセラピーとして何かをするわけではないし、医学的な立場ということでもないので、それとは違った立場でいきたいというのもありました。

オランダのアルクマールでドラッグとアルコールの中毒患者で作った道は非常にシンボリックな作業ですが、提案としては単純に自分たちが社会に帰る、町に帰る道を作ろうと提唱しただけです。

彼らは毎日コツコツと作業を進めていくだけです。ここで決められているプログラムは毎日1時間、外に出て作業をすることだけです。その作業は何かというと、だいたい2メートルぐらいの長さの板を、毎日自分で貼って釘を打って延長していくだけ。それは自分でやるしかないわけです。毎日10人くらい作業に出てくるのですがほとんど彼らは共同作業ができない。
最初の1年は100メートルぐらい作るのが精一杯でした。2年面には1キロぐらい。3年目で3キロ半ぐらいの長い通路ができた。彼らにとっては通路を作るという発想は全くなくて自分で釘を打つことが結果的にそれを自分で確認したから作業が続けられる。そのような日々の作業によって達成感が得られる。

毎日のルーティン化された作業というのが彼らにとってよかったんですね。具体的に彼らの症状が良化したということは聞いていないし、約80%の人がまた施設に戻ってきます。ほとんど治らないといってもいいぐらいなのですが、ただ一つの達成感を得たということが彼らにとっては自信になったと後からセラピーの人から聞きました。

医療現場だけではなく時代と共にアーティストの活動の場が非常に広がっています。都市開発、宇宙開発、産業との連携

精神科医の中井久夫さんが提唱した療法に「風景構成法」というものがあります。「ランドスケープ・モンタージュ・テクニック」と言われるもので、風景に心象を託していって、一種の箱庭の平面化だと思いますが、統合失調症患者に臨床のきっかけになるように、川とか、山とか田んぼ、道、木とか、家とか、人とか、花とか動物とか石などを、白い縁取りして描かせる。そういう絵をみて医師がなんらかの形で患者に関わっていく。分析というよりも何かそこに関与していくことが重要であるという、いわゆる「絵画療法」です。
中井さんは医者なので直接的に患者さんと関わって「芸術医療」を提唱しています。

ベルギーで有名な美術展のオルガナイザーのヤン・フートは国際展「ドクメンタ」のディレクターなどをやっていますが、もともと父親が非常に著名な精神科医で自分の家を開放して患者を招いたりいろいろやっています。
「シャンプルダミ(友達の部屋)」という展覧会があり、一般の人の家にアーティストを招いてそこで作品を作りそれをみんなが見に行くという、新しい展覧会を企画しています。彼にとっては人を招くというというのは子供のころから当たり前のこととしてあるようで精神病の人が自分の食卓に必ずいてそれが当たり前になっていた。
彼はアートと精神病ということを含めていろいろ発言しています。
「オープンマインド」という展覧会はまさに「アートと精神病」と言うテーマでアウトサイダー・アートの作品と現代作家の作品をパラレルに展示して非常に面白い視点でアートを考えていました。

Posted by kakehi_k at 01:00│Comments(0)TrackBack(0) 名古屋精神科環境建築研究会 

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